共有不動産を所有していて「うまく活用できないので処分してお金に換えたい」「トラブルが起きやすいので手放したい」と考える人は少なくありません。
ところが、共有不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要となり、売却がスムーズに進まないということがよくあります。
しかし、自分の共有持分のみであれば誰の同意を得なくても処分が可能です。
共有持分を処分する方法には「持分を買い取ってもらう」「持分を放棄する」といった方法があります。
なるべく早く、スムーズに売却したいのであれば、共有持分専門の買取業者に相談しましょう。早ければ2日で、共有持分を現金化できます。
共有持分を処分する3つの方法
共有持分を処分する方法は3つあります。
その方法とは以下のとおりです。
- 【方法1】共有者に持分を買い取ってもらう
- 【方法2】持分を第三者に売却する
- 【方法3】持分を放棄する
それぞれ詳しく解説していきます。
【方法1】共有者に持分を買い取ってもらう
1つ目の方法が「共有者に持分を買い取ってもらう」方法です。
例えばAさんとBさんが1/2ずつの持分で共有している不動産があったとします。
Aさんが共有持分を処分したいと考え、Bさんに持分の買い取りを提案しました。
Bさんに買い取りの意思があったため、AさんからBさんに持分を売却できました。
このように、共有持分を他の共有者に売却する方法を持分移転といいます。
仮にAさんBさんCさんの3人で共有する不動産があり、Aさんの持分をBさんにだけ売却するということも可能です。
この場合Aさんは共有状態から開放され、BさんとCさんの共有が続きます。
【方法2】持分を第三者に売却する
2つ目は「持分を第三者に売却する」方法です。
共有不動産全体を勝手に売却することはできませんが、自分の持分のみであれば共有者の同意なく第三者に売却しても問題ありません。
第三者とは所有している共有不動産とは無関係の人のこと。
専門買取業者もしくは不動産投資家への売却が一般的です。
専門買取業者とも不動産投資家とも今まで無縁だったという人も多いかと思いますので、それぞれについて解説していきます。
専門買取業者に売却
不動産の売却を考えると仲介を想像する方は多いかもしれません。
通常の不動産であれば仲介で売却する方法が一般的です。
しかし不動産業者のなかには、仲介を扱う業者だけでなく共有不動産の買取りを専門にしている業者も存在します。
共有持分は需要が低いため、仲介業者に依頼しても買主を見つけるのは困難です。
そこで共有持分の売却では仲介業者ではなく専門買取業者に売却します。
なぜ需要が低いかというと、共有持分を買ったとしても住むことはできず活用することも難しく、個人が買うメリットを感じられないからです。
しかし専門買取業者への売却であれば、業者が買主となるため買主が見つからないという問題を解決できます。
ではなぜ専門買取業者は買ってくれるのかというと、住むことが目的ではないからです。
共有持分の買取り後に物件全体の所有権を手に入れてから売却するなど、専門買取業者は利益を得ることができるのです。
共有持分の買取りを専門にしていて、かつ実績の豊富な業者であれば他の共有者との関わり方や手続きの進め方にも慣れています。
安心して進められることから、専門買取業者への売却を多くの方が選択しています。
不動産投資家に売却
共有持分は不動産投資家が買主となることもあります。
しかし専門買取業者を見つけるよりも不動産投資家を見つけることは困難です。
「知り合いに不動産投資家がいる」「知り合いのツテがあった」などの環境でなければ、不動産投資家とつながること自体がハードルとなります。
不動産投資家への売却は選択肢の1つではありますが、選択できる人は多くありません。
【方法3】持分を放棄する
3つ目は「持分を放棄する」という方法です。
持分を放棄するとは、共有持分の所有権を手放すということです。
他の共有者の同意は必要なく自分の意思のみで放棄でき、放棄した共有持分は他の共有者が所有することになります。
民法には以下のように明記されています。
民法第255条
引用:e-Govポータル「民法第255条」
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
例えばAさんとBさんの2人で共有していてAさんが持分を放棄するなら、放棄された共有持分はBさんが所有することになります。
他に共有者はいないので、Bさん単独名義の不動産となります。
共有者が複数いる場合は、放棄された共有持分を共有者全員で分け合い、配分は共有者それぞれの持分比率に応じます。
例えば共有不動産をAさん5/10(50%)、Bさん3/10(30%)、Cさん2/10(20%)の割合で共有していたとします。
BさんとCさんの持分比率は3:2です。
Aさんが持分を放棄すると、5/10の持分はBさんとCさんの持分割合(3:2)に応じて配分されます。
つまりAさんの5/10のうち3/10はBさんへ、2/10はCさんへと配分されるということです。
共有持分の放棄では気をつけなければいけない点もあります。
持分を放棄するとその所有権は他の共有者に移ります。
すると税法上は共有者へ贈与したとみなされてしまうのです。
相続税基本通達 9-12
引用:国税庁 法令解釈通達 第9条《その他の利益の享受》
共有に属する財産の共有者の1人が、その持分を放棄(相続の放棄を除く。)したとき、又は死亡した場合においてその者の相続人がないときは、その者に係る持分は、他の共有者がその持分に応じ贈与又は遺贈により取得したものとして取り扱うものとする。
受け取る側の同意を得なくても放棄できるとはいえ、受け取った側に贈与税が課せられるので注意しなければいけません。
放棄することを他共有者にも事前に相談しておくようにしましょう。
処分の進め方と売却相場
ここまで、共有持分の処分方法を3つ紹介しました。
それぞれの方法の特徴を知ったことで、自分がどの方法を選択するべきかが少し見えてきたかもしれません。
そこでここからは、それぞれの方法の進め方と売却相場について解説していきます。
共有者に持分を買い取ってもらう場合の進め方
まずは共有者に持分を買い取ってもらう場合の進め方を見ていきましょう。
共有者に持分を買い取ってもらう場合は以下のような流れになります。
売却価格を決める→契約書を作成する→持分移転登記をする
それぞれを項目に分けて解説していきます。
売却価格を決める
共有者に持分を買い取ってもらうには、まずは売却価格を決めなければいけません。
例えば3,000万円の不動産を1/2の持分で所有している場合、自分の持分には1,500万円の価値があると思うでしょうか。
この不動産を丸ごと売却して売却益を分けるとなると、1,500万円を受け取れるかもしれません。
しかし、持分のみの売却ではそうはいかないのです。
共有持分の売却価格を決める際には以下の計算式を参考にしてみてください。
「共有不動産全体の価格×持分割合×1/2」
さきほどの例に当てはめて計算すると以下のようになります。
3,000万円×1/2×1/2=750万円
3,000万円の不動産の持分が1/2であれば、持分を売却すると750万円が売却価格の目安となります。
共有持分のみでは需要が少ないため、不動産全体の価値と同等とはいかないのです。
しかし、これはあくまでも目安金額を計算する方法です。
共有者が持分の買い取りを積極的に検討しているなら強気の価格設定ができることもありますし、逆に買い取りをお願いするような関係であれば売却価格はさらに低くなることもあります。
売買契約書を作成する
売却価格で合意ができたら、続いては契約書の作成に進みます。
どの物件なのか、売買代金や支払い時期、支払い方法、瑕疵担保責任、そして価格以外で決めた条件があるならそれらも含めて契約書を作成します。
売主と買主の双方が署名捺印をし、売買価格に応じた収入印紙を忘れずに貼らなければいけません。
売買契約書の作成は個人でもできますが、不動産の仲介業者や弁護士が介入している場合には契約書の作成も任せることができます。
売買契約が成立したら売買代金を受け取り、領収書を渡しましょう。
持分移転登記をする
売買契約、売買代金の受け取りまで完了したら、持分移転登記をしなければいけません。
持分移転登記とは、共有持分の名義を変更する登記手続きのことです。
主に以下のような必要書類を法務局に提出し申請します。
- 登記申請書
- 登記原因証明情報
- 登記済証または登記識別情報
- 納税通知書または固定資産税評価証明書
- 登記権利者(持分を取得した人)の住民票
- 登記義務者(持分を手放した人)の印鑑証明書
1の登記申請書は決まった様式があるわけではなく、法務局が公開している記載例を参考にしながらA4用紙に自作します。
2の登記原因証明情報とはなぜ登記をすることになったのか、その原因となった事実を証明する情報のことです。
今回は売買が原因となり、売買契約書が登記原因証明情報となります。
3の登記済証または登記識別情報はどちらかを提出しなければいけません。
登記済証とは一般に「権利書」と呼ばれている書類です。
登記識別情報とは平成17年以降に取得した不動産に発行されている、登記識別情報通知という書面に記載されている12桁の英数字の組み合わせです。
不動産を取得したタイミングによって登記済証か登記識別情報が法務局から発行されているので、自分が該当する方を提出します。
4の納税通知書または固定資産税評価証明書は、登録免許税を算出するために必要です。
持分移転登記には登録免許税がかかり、登録免許税算出のためには正確な固定資産税・都市計画税を把握しなければいけません。
納税通知書は毎年4~6月頃に送られてきます。
紛失している場合は再発行不可のため、都道府県に所在する税事務所で固定資産税評価証明書を発行してもらいましょう。
5の登記権利者(持分を取得した人)の住民票と、6の登記義務者(持分を手放した人)の印鑑証明書は取得も難しくないのでスムーズに用意することができるでしょう。
手続きは窓口と郵送だけでなく、オンラインでも可能です。
登記手続きが完了すると完了証が発行され、目安となる期間は申請から1~2週間程度です。
専門買取業者に売却する場合の進め方
続いては2つ目の方法、専門買取業者に売却する場合の進め方です。
専門買取業者に売却する場合は以下のような流れになります。
専門買取業者を選ぶ→業者への依頼・売買契約・引き渡し
業者に依頼する場合、プロが手続きを進めてくれるので安心かもしれません。
しかし専門買取業者を自分で選ばなければいけませんし、どれくらいの期間を要するのかも見当がついた方が安心できます。
そこで、ここでは以下の項目に分けて解説します。
- 専門買取業者の選び方
- 売却期間と売却相場
それぞれの項目を見ていきましょう。
専門買取業者の選び方
共有持分のみを売りたいと考えている人は「早く共有状態から解消されたい」「いくつかの業者を当たってみたけれど買い取ってもらえなかった」「早く現金化したい」などの悩みを抱えている人もいます。
これらの悩みに共通しているのは、スピード解決を望んでいるということです。
まずは専門買取業者を見つけなければいけませんが、共有持分のみを買い取ってくれる専門業者は仲介業者に比べると多くはありません。
母数が多くないなか、希望通りの持分売却をするにはポイントを押さえながらの業者選びが重要です。
ポイントを押さえて業者を探すと回り道をせずに済むので、時間も短縮できます。
専門買取業者を選ぶ際のポイントは以下のようになります。
- ホームページなどで共有持分の買取実績を公開している
- 口コミ・評判が良い
- 弁護士や税理士などの専門家と連携している
共有持分はその不動産に他の所有者もいるということです。
扱いが難しく、共有者間でのトラブルも少なくないことから共有持分の扱いに長けた業者であることは必須条件となります。
共有持分の扱いに長けているか、実績が豊富かの判断はホームページや口コミ・評判を参考にするとよいでしょう。
また、共有持分を売却することによって他共有者とトラブルになる可能性もゼロではありません。
トラブル解消や複雑な権利関係をクリアにするために弁護士に依頼する可能性があると判断されると、その分、買取価格を下げられるかもしれません。
あらかじめ弁護士などの専門家と連携している買取業者の方が安心です。
売却期間と売却相場
共有持分を専門買取業者に売却する場合、買主は専門買取業者です。
すなわち、専門買取業者との話しがまとまれば契約へと進むことができるため、最短1週間ほどでの売却が可能です。
仲介の場合だとまずは依頼する仲介業者を探し、仲介業者が買主を探し、買主が決まってから契約となります。
買主が見つかるまでに時間がかかることも珍しくないため、不動産の売却には時間を要するイメージがあるかもしれませんが、専門買取業者への売却ではそれほどロングスパンで考える必要はありません。
売却相場についてですが、共有持分のみの売却はやはり市場価格よりも低くなってしまいます。
前述した計算式が目安となるでしょう。
「共有不動産全体の価格×持分割合×1/2」
しかしなかには高値で売れている共有持分もあります。
高値で取引されている共有持分には以下のような特徴があります。
- 持分割合が大きい
- 共有者の人数が少ない
- 共有持分の売却に他共有者も同意している
持分割合が大きければ共有不動産に対する権利も大きくなり、共有不動産におこなえる行為も増えます。
そのため持分割合が大きければ高値で売買される傾向があります。
どういうことか解説していきましょう。
共有名義の不動産に対しておこなう行為は「変更(処分)行為」「管理行為」「保存行為」の3つに分けられます。
行為の種類 | 同意が必要な共有者の人数 |
---|---|
変更(処分)行為 | 共有者全員の同意が必要 |
管理行為 | 共有者の持分価格の過半数が必要 |
保存行為 | 共有者それぞれが単独で可能 |
ここでポイントなるのが「管理行為」です。
持分価格の過半数の同意でできるようになる「管理行為」は以下のようになります。
つまり、共有持分を過半数有していると、使用方法の決定や賃貸借契約の締結・解除などが自由にできるようになるのです。
そのため「持分割合が過半数あるか」が共有持分の価格に大きく影響します。
専門買取業者は買取後、利益を得るために売却することを考えています。
そこで、買取後に売却しやすいかという点も評価されるでしょう。
そもそも共有持分の売却に反対している共有者がいたり共有者の人数が多かったりすると、買取後の売却もスムーズに進まない可能性があります。
「共有者の人数が少ない」「共有持分の売却に共有者が同意をしている」という条件も加わっている方が高値で取引される傾向にあります。
持分を放棄する場合の進め方
最後は3つ目の方法、持分を放棄する場合の進め方です。
共有持分を放棄することを共有者に伝えただけでは放棄したことになりませんので、以下の手順で進めていきます。
内容証明郵便で持分放棄を通知する→持分移転登記をする
共有持分の放棄は共有者の同意を得る必要はないのですが、手続きには協力してもらわなければいけません。
ここで矛盾が生じるため手続きの協力が得られない場合もあります。
その場合は登記引取請求訴訟でトラブルを解決することができます。
順に詳しく見ていきましょう。
内容証明郵便で持分放棄を通知する
まず、共有持分を放棄する意思があることを共有者に通知しなければいけません。
言った言わないのトラブルを避けるために、内容証明郵便で送付します。
内容証明郵便であれば、差出人・日付・内容を郵便局に証明してもらえるので安心です。
持分移転登記をする
続いて持分移転登記をします。
共有者に持分を買い取ってもらうケースでも解説しましたが、持分移転登記は共有持分の名義を変更する登記手続きのことです。
法務局で登記手続きをおこなわないと、法的に共有持分を放棄したことにはなりません。
固定資産税などの納税義務が続いてしまうので注意しましょう。
そして、1月1日時点の所有者に納税義務があるため、年の途中に放棄してもすぐには納税義務が消えません。
その点も留意しておく必要があります。
法務局に提出する必要書類等については「共有者に持分を買い取ってもらう場合の進め方」の項目をご覧ください。
協力が得られないなら登記引取請求訴訟を起こす
持分を放棄すると受け取った側に贈与税がかかる可能性もあるため、登記手続きに協力してもらえないということもあります。
協力が得られない場合は「登記引取請求訴訟」で強制的に登記することも可能です。
登記引取請求訴訟とは、協力してくれない相手に対し登記名義を引き取るべきと主張する訴訟です。
持分の放棄については民法第255条に規定されているため、登記引取請求訴訟が棄却されることはありません。
民法第255条
引用:e-Govポータル「民法第255条」
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
裁判所の命令を拒否することはできないため、協力を拒否していても最終的には受け入れなければいけません。
そのため「登記引取請求訴訟を起こす」と伝えた時点で和解するケースがほとんどです。
登記引取請求訴訟の手続きについて詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
まとめ
共有不動産を所有したきっかけは相続という方はたくさんいます。
当然共有持分を所有することになり「扱いに困っている」「トラブルが起こるようになった」など、悩みのタネとなっていることも少なくありません。
共有持分からの解放を望んだ場合に選択できる方法は「共有者に持分を買い取ってもらう」「持分を第三者に買い取ってもらう」「持分を放棄する」の3つがあります。
どの方法が最善かはケースバイケースです。
共有者との関係性など、ご自身の場合はどの選択をするのがよいのか、冷静に判断できるよう参考にしてみてください。