不動産売却で利益が発生すると税金がかかります。
不動産取引は高額になるケースが多く、原則として税額は利益に比例するので、税金だけでも大きな出費になります。
そのため、万が一不動産売却で得た利益を丸々使ってしまった場合、納税資金が足りない事態に陥りかねません。
後々の金銭トラブルを防ぐため、事前に自身の不動産を売った時、どのくらいの税金がかかるのかを知っておく必要があります。
そこで、この記事では不動産売却で売主が支払う税金とその計算方法、および節税する方法を紹介しますので、参考にしてみてください。
不動産売却でかかる税金は4種類
不動産売却でかかる税金は下記4種類です。
- 印紙税
- 登録免許税
- 所得税
- 住民税
それぞれ支払いが必要なタイミングや、課税の対象となる物事が違います。1つずつ詳しい内容を見ていきましょう。
1.印紙税
印紙税は不動産売買契約書に対してかかる税金です。
不動産売却では一般的に、売買契約書を2通作成し、売主・買主がそれぞれ1通ずつ保有します。
そのため、1通分の印紙税を売主は負担します。
特別な手続きは不要です。収入印紙を購入し、契約書に貼ることで納付したことになります。
不動産売買契約書に対する印紙税は、2014年4月1日から2022年3月31日までの間に契約書が作成された場合、軽減措置の対象です。
下表は、不動産売却で発生するケースが多い「契約金額500万円超から1億円以下」の範囲における印紙税の抜粋です。
契約金額 | 本則税率に基づく税額 | 軽減税率に基づく税額 |
---|---|---|
500万円超1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
2.登録免許税
2つ目の税金は、法務局に登記申請をする際にかかる登録免許税です。
登記とは?
不動産の権利関係や面積などの情報を管理・公開する国の制度。
登記は不動産の権利に変更があったときにおこないます。不動産売却に関係する登記申請としては、下記の2つが代表的です。
- 所有権移転登記(不動産の名義変更)
- 抵当権抹消登記(住宅ローンを借りたときに設定した抵当権の抹消)
登録免許税は、登記申請の内容と、登記をおこなう不動産の価値で変わります。
申請内容 | 税額 |
---|---|
土地の売買における所有権移転登記 | 土地の価額の2%(令和5年3月31日までは1.5%) |
建物の売買における所有権移転登記 | 建物の価額の2%(条件次第で0.1~0.3%) |
抵当権抹消登記 | 不動産1個につき1,000円 |
3.所得税
「印紙税」と「登録免許税」は不動産売却で利益が出たかどうかによらず、納める必要があります。
これから説明する「所得税」と「住民税」を納める必要があるのは、不動産売却で利益が出た場合のみです。
不動産売却でかかる所得税は原則「分離課税」で、給与所得や事業所得など他の所得とは分けて税額を計算します。
税率は売却した不動産の所有期間によって異なり、下表のとおりです。
所有期間 (売却した年の1月1日時点) | 税率 |
---|---|
5年以下 (短期譲渡所得) | 30% |
5年超 (長期譲渡所得) | 15% |
※2013年から2037年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付します。
また、支払うタイミングは確定申告の期間中ですので原則、不動産売却した翌年の2月16日~3月15日です。
4.住民税
確定申告は所得税の申告です。
しかし、所得税の確定申告をすると、その確定申告書が地方公共団体へデータで送信されるため、改めての住民税申告は不要です。
住民税の計算はあなたの住民票がある自治体がおこないます。
会社員であれば通常、住民税は「特別徴収」となっているため、給与から控除されて納付しています。
そのため、自分で納める必要はありません。
確定申告で「普通徴収」を選択した場合は、確定申告した年の6月ごろに「住民税決定通知書」が届きます。
課税される税率は所得税と同じく、売却した年の1月1日時点での所有期間によって下表のように異なります。
所有期間 (売却した年の1月1日時点) | 税率 |
---|---|
5年以下 (短期譲渡所得) | 9% |
5年超 (長期譲渡所得) | 5% |
納税は一括または4回の分割を選ぶことができ、どちらの場合でも納付書に記載された期日までに支払いましょう。
所得税・住民税は「課税譲渡所得」に対してかかる
課税対象となる金額は「課税譲渡所得」に対してです。
「売却価格」ではありません。
売却による「収入金額」から不動産の取得時にかかった費用と売却にかかった費用を差し引いて「譲渡所得」を算出します。
その金額から特別控除を差し引いた金額が「課税譲渡所得」です。
なお、建物を売却した場合には「減価償却」を考慮する必要があり、計算が複雑になるので慎重に計算しましょう。
それでは、所得税・住民税の詳しい計算方法について説明します。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得の計算方法をまとめると下記のとおりです。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得 = 収入金額 – 取得費 – 譲渡費用
式にすれば単純です。
しかし、不動産取引でかかったすべての費用がどこかに当てはまるわけではありません。
正しく税額を計算するために、どのような費用を計上できるのか把握しておきましょう。
収入金額
収入金額は不動産売却で得た収入です。
そのため、売却代金は収入金額として計上します。
このとき固定資産税・都市計画税の精算金を受け取っていた場合、その金額も収入金額として計上する必要があるので注意してください。
精算金は実質的に、不動産売却における「対価の一部に相当する」とされているからです。
取得費
取得費は売却した不動産の購入にかかった費用です。
「購入代金」だけでなく「登録免許税」「不動産取得税」「印紙税」のような購入時に納めた税金や登記費用のほか、不動産会社へ支払った「仲介手数料」「設備費」「リフォーム費用」なども含まれます。
取得費を計算する際、建物部分については、所有期間中の劣化分を「減価償却費相当額」として差し引く必要があります。
複雑な計算となるため、間違えないよう慎重に計算しましょう。
このように、多くの費用を取得費として計上できるので、国税庁のホームページを参考にしたり、所轄の税務署や専門の税理士に確認しましょう。
譲渡費用
譲渡費用は不動産売却に「直接」かかった費用のことです。
「仲介手数料」や「印紙税」「測量費用」などが該当します。
建物を取り壊して土地のみを売却した場合は「取り壊し費用」も譲渡費用として計上できます。
売却しやすくする目的でおこなった修繕費用や抵当権抹消登記にかかった登録免許税などは譲渡費用になりません。
不動産売却でかかる税金の具体例
ここまでの内容を踏まえ、実際にかかる税金を具体例で説明します。
前提条件は下記のとおりです。
- 売却代金は4,000万円
- 固定資産税・都市計画税の精算金は5万円
- 土地の取得費は3,000万円
- 建物の取得費は500万円
(減価償却費相当額は差し引き済み) - 譲渡費用は200万円
- 土地・建物に対する抵当権抹消登記の手続きあり
- 所有期間は8年
最初にかかる税金は「印紙税」です。
次に、引き渡し時にかかる抵当権抹消登記にかかる「登録免許税」です。
そして、所得税と住民税を計算します。
課税所得は805万円です。(4,000万円 + 5万円 - 3,000万円 - 200万円 )
売却代金 | 4,000万円 |
---|---|
固定資産税・都市計画税 の精算金 | 5万円 |
土地の取得費 | 3,000万円 |
住民税 | 200万円 |
税率は長期譲渡所得が適用されるので「所得税」が120.75万円で「住民税」が40.25万円です。
以上より、不動産売却でかかる税金の合計額は162.2万円です。(1万円+0.2万円 + 120.75万円 + 40.25万円)
印紙税 | 1万円 |
---|---|
登録免許税 | 2,000円 |
所得税 | 120.75万円 |
住民税 | 40.25万円 |
意外に高額な税金がかかるので、納税資金は計画的に残しておきましょう。
マイホーム売却時には各種特例が適用されるケースがある
不動産のなかでも「マイホーム」を売却した際には、特別控除や軽減税率などの特例が適用されるケースがあります。
主な特例は下記3つです。
- 3,000万円特別控除の特例
- 10年超所有軽減税率の特例
- 特定居住用財産の買換え特例
一定の要件を満たせば上記特例を適用でき、大幅に税金を節約できます。
次から各内容と適用条件の概要を説明します。
1.3,000万円特別控除の特例
マイホームを売った際、所有期間に関係なく最高3,000万円まで控除できる特例です。
主な適用要件は以下のとおりです。
- 自分が住んでいる家屋を売ること
- 以前住んでいた場合は、住まなくなった日から3年になる年の12月31日までに売却すること
- 売却した年の前年と前々年にその他特例の適用を受けていないこと
- 買主が親子や夫婦など特別な関係でないこと
多くの条件がありますが「特殊な使い方をしていないマイホーム」の「一般的な方法による売却」であれば、基本的に適用されると考えて問題ありません。
なお、この特例を受けるためには確定申告が必要です。
3,000万円控除することで、課税譲渡所得が0円になる場合でも忘れずに確定申告してください。
2.10年超所有軽減税率の特例
売却した年の1月1日時点でマイホームの所有期間が10年を超えている場合に適用できる特例です。
通常の長期譲渡所得にかかる税率よりも低い税率で計算できます。
適用される税率は下表のとおりです。
課税長期譲渡所得 | 税率 |
---|---|
6,000万円以下の部分 | 10% |
6,000万円超の部分 | 15% |
マイホームの買換えや交換の特例など他の特例を受けていないことが適用要件の1つです。
しかし、先ほど説明した「3,000万円特別控除の特例」とは重ねて受けられることを覚えておいてください。
この特例を受けるためには、確定申告が必要です。
3.特定居住用財産の買換え特例
特定のマイホームを2022年12月31日までに売却し、代わりのマイホームに買い換えた際に適用できる特例です。
一定の要件を満たせば、譲渡所得に対する課税を次回売却時にまで繰り延べられます。
「免税」ではなく「繰り延べ」である点に注意してください。
例えば、今回の売却で4,000万円、次回の売却で2,000万円の譲渡所得が発生したケースを考えてみます。
この場合、今回売却時に譲渡所得税はかかりませんが、次回売却時に譲渡所得の合計6,000万円に対して課税されます。
この特例のメリットは、マイホームの買換えで売却代金を使う際に、譲渡所得にかかる税金を考慮する必要がないことです。
税金の心配をせずに買換えできます。
なお「特定のマイホーム」とあるように、この特例はすべてのマイホームが受けられるわけではありません。
「居住期間」「所有期間」「買い換える建物の床面積・敷地面積」などに条件が定められているので確認するようにしてください。
不動産売却でかかる税金を節税する方法
不動産が高く売れると嬉しい反面、高額な税金が心配になるかもしれません。
できれば抑えられる税金は抑えたいですよね。
税金を節税する方法はさまざまありますが、そのなかでも5つの税金対策を紹介します。
- 契約書を1通だけの作成とする
- 取得費・譲渡費用をもれなく計上する
- 適用できる特例は忘れずに利用する
- 税率が下がったタイミングで売却する
- ふるさと納税を利用する
登録免許税は抵当権抹消登記する不動産の個数で金額が決まっているので、節税はできません。
以下で説明する方法は「印紙税」「所得税・住民税」を抑える方法です。
1.契約書を1通だけの作成とする
通常の売買契約では契約書を2通作成し、売主・買主それぞれが収入印紙を貼り、記名押印して原本を保有します。
このとき契約書の作成は1通のみとし、売主は契約書のコピーを保有することにします。
売主・買主双方の合意が必要ですが、税法上は契約書1通で問題ありません。
印紙税は1通分となるので、買主と折半すれば印紙税の節税になります。
なお、印紙が不要なケースは売買契約書を「コピーのみするとき」です。
コピーに対して「原本と相違ない」旨の証明文言がある場合、印紙を貼る必要があるので注意してください。
2.取得費・譲渡費用をもれなく計上する
2つ目は、取得費・譲渡費用とできる費用はもれなく計上することです。
譲渡所得が抑えられるので、節税効果があります。
国税庁ホームページにも主な費用は記載されていますが、計上できるか判断に迷う費用もあると思います。
税務署の担当者では判断つかない場合もあり「迷う場合は計上しない」とされる恐れもあります。
計上漏れがないように節税対策に詳しい税理士のような専門家に相談することをおすすめします。
3.適用できる特例は忘れずに利用する
3つ目は適用できる特例は忘れずに利用することです。
例えば「3,000万円特別控除の特例」を利用すると税額は下記のように抑えられます。
譲渡所得が4,000万円の場合、課税譲渡所得は1,000万円です。
もしも短期譲渡所得で特例を利用しなければ、税額は所得税30%と住民税9%の合計で1,560万円です。
しかし、特例を利用することで、税率は変わりませんが、課税対象額が抑えられるため、税額は490万円まで下がります。
このケースでは1,000万円以上の節税効果があります。
複数の特例で適用要件を満たしている場合は、重ねて利用できるかを調べる必要があります。
1つしか適用できない場合は、そのなかで節税効果の大きい特例を選んで利用するとよいでしょう。
4.税率が下がったタイミングで売却する
4つ目は税率が下がったタイミングで売却することです。
譲渡所得税は5年を境に税率が約半分近くに下がります。
また、一定の要件を満たしている場合、所有期間10年超でさらに税率が下がります。
そのため、翌年もしくは翌々年の売却で長期譲渡所得が適用される場合で、急いで売却する特別な理由がなければ、売却タイミングを後らせるだけで節税効果があります。
5.ふるさと納税を利用する
5つ目はふるさと納税を利用することです。
ふるさと納税は、あなたが自治体を選んで寄付できる制度です。この制度は不動産売却に関係なく利用可能です。
寄付金のうち2,000円を超える部分については所得税の還付・住民税の控除が受けられます。
なお、控除上限額は総所得金額の30%です。
したがって、不動産売却で「総所得金額」が増えた場合、その年の控除対象額も増えます。
通常の年では控除対象外となる金額も寄附でき、いつもとは違う返礼品を楽しめるでしょう。
ふるさと納税は他の特例のように適用条件を気にする必要がなく、手軽に利用できる点もメリットです。
ただし、ふるさと納税は「売却した年と同じ年」にする必要があるので、注意してください。
不動産売却でかかる税金を納めるには確定申告が必要
ここまで説明してきたように、不動産売却でかかる主な税金は「印紙税」「登録免許税」「所得税」「住民税」の4種類です。
このうち「所得税」を納めるためには、確定申告が必要です。
「住民税」は所得税の確定申告により、自動で自治体へデータが転送されるので、手続きは不要です。
また、確定申告では売買契約書や登記事項証明書が添付書類として必要になるので、しっかりと保管しておきましょう。
申告書の作成方法は所轄の税務署で教えてくれます。
自分で手続きする時間がなかったり、不安があれば税理士のような専門家に依頼すると安心で確実です。
譲渡所得があるのに確定申告しなければ罰則があるので要注意
不動産売却でかかる所得税額・住民税額は確定申告により確定します。
そのため「申告しなければ、ばれないのではないか」と思われるかもしれません。
しかし、税務署は登記簿から売却したことを把握しており、不動産会社は売買取引の事実を税務署へ報告しています。
このように税務署は、あなたが不動産売却したことを確実に把握しているので、確定申告しなければわかります。
譲渡所得があり、譲渡所得税が課税されるのに確定申告していなければ「無申告加算税」や「延滞税」など本来不要な税金も課税されるので注意してください。
万が一、確定申告し忘れてしまった場合はそのままにせず、速やかに税務署に連絡して必要な対応を確認しましょう。
まとめ
不動産売却では「売買契約時」「物件引渡し時」「売却翌年」と異なるタイミングでさまざまな税金がかかります。
そのなかでも所得税と住民税は不動産売却で「譲渡所得」が発生した場合にかかります。
その場合、確定申告する必要があるので忘れずに手続きしてください。
また譲渡所得があっても、特例の適用を受ければ税額を大幅に抑えられたり、ゼロになる可能性もあります。
特例の適用要件を正確に調べて、利用を忘れないようにしましょう。
税金については調べても専門的な用語が多く、計算が難しいと感じるかもしれません。
自分で手続きすることに不安があれば、専門家である税理士に依頼することをおすすめします。